@kedamatti's diary

米山知宏の思考メモです(専門は、知/情報/自律的な組織づくり/プロジェクトマネジメント/ナレッジマネジメント/コミュニケーション/オープンガバメント/民主主義/市民参加/シビックテック)

ソーシャルメディアは政治を変える?

7月24日に、横浜メディア研究会が主催する「ソーシャルメディアは政治を変える?」というシンポジウムに参加してきた。シンポジウムには100名近い人達が集まり、大変熱気に包まれた場になってた。今回は、下記のページでインターネットでライブ中継(http://tvk-yokohama.tv/)も行われていたので、会場にいない人達でも、ディスカッションの様子を見ることが出来たのではないかと思う。
(注)このURLからは中継はもう見らないが、こちらから動画が見られる模様。→http://www.stickam.jp/profile/tvkyokohamatv

シンポジウムの様子をTwitter実況をしていた(http://twitter.com/kedamatti)ので、そのログも含めて、感想などを整理してみたいと思う。

「ソーシャルメディアは政治を変える?」というアジェンダセッティング

さて、シンポジウムに参加してみての雑感を書こうと思うが、実は、このシンポジウムに参加するにあたって、自分自身の問題認識は何だかふわふわしていた。大変興味あるテーマであることはもちろん間違いないのだが、一方で、俺は何を聞きに行くのだろうと自分自身が良く分かっていなかった。

結局このもやもや感は、シンポジウムが終わっても無くなることはなかった。議員さん側のTwitterに対する想い、議員さんのTwitter利用に期待する国民、両者の意見がぶつかった素晴らしい場であったのにも関わらず、ディスカッションを聞き終わっても、何だかすっきりしない気持ちだったというのが正直なところ。

面白かったのにこの物足りなさは何なんだ。そんな気持ちでこの土日を過ごしていたのだが、このもやもや感を払拭してくれたのは、藤野議員のTwitter上でのつぶやきだった。

目的を見失ったり、最初から目的を持っていない人間は、政治家を辞めるべきです。僕は目的が実現できないなら今すぐでもこの職業を辞めたいです。もっと別の手段の方が実現が早いなら、いつでも辞めます。目的があって手段があるだけ。僕はICTを手段としか受け止めていません。

http://twitter.com/FujinoHideaki/status/2840196374

だから、「ツイッター議員」っていう称号も、むしろ恥ずかしい感じです。僕はICT技術に全く関心がありません。それよりも「目的実現の為の手段の1つ」としか考えていないのです。

http://twitter.com/FujinoHideaki/status/2840212239

この書き込みを読んだとき、正直鳥肌が立った。「ITはツール・手段に過ぎない」とは多くの人が言うことだが、藤野議員のように、ここまでの覚悟を持っている人はいるだろうか。何よりも、ここまで「伝えることに飢えている」議員はいるだろうか。シンポジウムで庄司さんが言っていた「アメリカ人は、『社会を良くするためにソーシャルメディアを使うんだ!』と真面目な顔で言っている。」という話をふと思い出したが、表現は違うが、両者の根底にあるのは「思いを伝えなければならない」ということではないだろうか。

藤野議員のつぶやきを噛みしめると、「ソーシャルメディアは政治を変える?」というアジェンダは、適切なアジェンダではないのではないかという思いを強くした。言い方を変えれば、藤野議員のような想いを持っている人にとって、政治とソーシャルメディアに関して、議論するポイントは無いのではないだろうか。

社会に思いを伝えるためには、手段を選んでいられない

本当に「伝えていること」に飢えている人にとっては、ツールは何でも良い。藤野議員は、「伝えることに関するプロ」であり、「Twitterのプロ」ではない。その時代や場所に合わせて、一番、届けたい人に届けやすい手段を使うことが重要であり、ツールが政治を変えるかどうかという議論は重要ではない。

だからこそ、各議員には、様々な手段を検討して欲しいと思う。街で握手をして、街頭演説をすることも大事なことだとは思うが、その1割の時間を別の手段に変えたら、よりメッセージが伝わるのではないだろうか、と。コミュニケーションをする上で、もっと有効なやり方は無いのか、と。国民が情報を受け取りやすい形は何か、と。

国民は、色々なところから議員を見ている。街角で握手をするとき以外でも、議員を見ている。是非、国民のいる場所に、どんどん顔を出して欲しいと思う。

そして、国民の一人として、「各議員は、何を伝えたいのだろうか」「藤野議員のような覚悟を持っているのだろうか。」ということを、厳しく見ていきたいと思う。

実況ログ

以下は、当日のシンポジウムの実況ログ。当日の中継メモをそのまま掲載しているので、誤字脱字にはご容赦頂きたい。

まず最初は、北京にいらっしゃる庄司さんか、ネットワーク越しのプレゼンテーション。

庄司:北京からは、Twitterにアクセス出来ない。中国政府は神経をとがらされている状況。さて、梅田もちおさんが「日本のWebは残念」と言ったが、そうなのだろうかという問題意識を持っている。
庄司:アメリカのホワイトハウスのWebは、YouTubeTwitterへのリンクが貼られている。連邦政府のCIOは、情報発信先の優先順位を変更し、国民へ直接提供することを優先した。提供する際には、一般国民が使っているツールを使って提供することを重視。
庄司:アメリカのTwitter議員は70名。議場からも生中継。アメリカ人は、「社会を良くするために使うんだ!」と真面目な顔で言っている。ツールの利用を避けている日本とは、大きな違い。ラインゴールドは、ソーシャルツールの使い方を理解している人が増えた、と。

続いて、東京新聞記者の池尾さんから、アメリカのソーシャルメディア事情についてプレゼン。

池尾:2005年からアメリカで特派員をやっていた。変わり者だから、変な取材ばかりしている(笑)。豚の農家が困っているところを取材したり、サブプライムローンの影響を受けて出来たテント村を取材したり、ニューオーリンズの洪水を取材したり。
池尾:何より印象的だったのは、オバマ大統領選の取材。大学生の女の子も支援をしていた。日本では、若い人が政治のサポートをするというのは考えられなかったこと。この背景には、メディアの変革がある。オバマがメディアをどのように使って、また、若い人がどう使ったかを紹介したい。
池尾:オバマが集めた献金は600億強。200ドル以下の献金の数が、ヒラリーに比べて圧倒的に多い。ちりも積もれば、、という状況。なけなしのお金で献金をしていた。これを可能にしたのが、オバマのWebページ。簡単に献金ができるようになっている。
池尾:ただ、普通、献金窓口をもうけても献金が増えるわけではない。なぜか。オバマのサイトはSNSでコミュニケーションツールであった。皆が政治に参加していた。
池尾:今は、国民健康保険が話題になっている。保険に入っていない人も多い。オバマは、一般の人達から、保険に関する意見を集めている。Youtube等を使って。
池尾:911事件でブッシュはテロと戦うことを誓ったが、それにより、メディアがブッシュを批判できなくなってしまった。でも、ブッシュ政策に疑問を持っている人はいた。彼らは、単に情報発信をするだけでなく、票集めなどの行動もする。
池尾:言論の点でも政治の点でも、完全にゲームのルールが変わった。今までは、NYYが誰を応援するかということがテーマだった。今回は、NYYが応援したヒラリーは敗れた。これまでは情報発信手段が限られていた。マスコミだけであったが、パラダイムが変わった。
池尾:ICTは、一般市民の力を変えていくことが出来るツール。ただ、同時に、一般市民の責任も問われる時代になった。どうもありがとうございました。

インターネット新聞「JANJAN」の神山さんのプレゼン。

神山:「ザ・選挙」「e国政」の紹介したい。「ザ・選挙」とは、日本全国の政治家情報を掲載。国政選挙は第1回の選挙から全ての情報を掲載している。政党から動画をもらって比較して載せることもやっている。早稲田大学のマニフェスト研究所と協力して、マニフェストマップを作成。
神山:「ザ・選挙」が何を目指すか。政治に関する正しい情報を提供していきたい。各政治家の学歴、経歴やスピーチ動画もある。過去の動画もアーカイブしている。
神山:2008年だけで、選挙は686回行われている。選挙の無かった日曜日は、1年で3日だけ。多いときは、1600以上の選挙があるときもある。これだけ多くの選挙が行われているのに、選挙公報、ハガキ、ビラ、ポスター、演説、政見放送などしか無い。配布枚数も限られている。
神山:これまで、政治における情報提供は限定的。選挙を変える可能性があるのが、インターネット。「政治の見える化」。「e国政」では、政治家に政策を語ってもらう動画を配信している。政治家と有権者を「政策」で結びつけたい。いつでもどこでも政治が身近に。
神山:ただ、「e国政」をやる上で、公職選挙法には気を遣っている。動画では、投票呼びかけをせず、政策について語ってもらうようにしている。また、不公平にならないように、動画の時間も5分以下と規定している。
神山:インターネットは、政治家と有権者を直接結びつける可能性がある。有権者も発信出来るようになった。「ザ・選挙」では、政治に役立つ情報を提供していきたい。選挙に立候補したい人は、すぐにページを作成するので、いつでも連絡して欲しい(笑)

続いては、メインディスカッション。
阿部よしひろ氏、伊藤ひろたか氏、藤野英明氏、篠原慎一郎氏、池尾氏、神山氏、進行は宮島氏。

阿部:以前民間のIT企業で働いていた。ITを使って、声の届きにくいところに届けたい。
伊藤:政治への不満を解消したい。自分が一票投じた議員が何を考えているか、何をしているか分からないという状況になっている。これを変えていきたい。ITは時間の概念を取っ払ってくれる。街頭演説は、そこに出会った人にしか声を届けられない。ネットは政治のあり方を変えるメディア。
宮島:「民意を問う」というが、民意が分からない。国政選挙では、民意が調査されるが、地方選挙ではそのようなことも少ない。そのあたりについて、神奈川新聞の篠原氏にお話し頂きたい。
篠原:市民の声をくみ取れているのか。10年くらい前から、「市民集会は本当に市民の集会になっているのか」と疑問に思っていた。取材をするときも、陣営を取材するだけでは政治の動き・市民の思いはつかめなくなってきた。
宮島:政治家を知ってもらう、地域の課題を知ってもらうという点で、ITというツールはどうか?
伊藤:まだ手探りの状況。Twitterをやっているのは、単純に面白いから。走りながら考えているという状況。
阿部:議員として新しいツールには、どんどんチャレンジしていきたい。4歳の息子がいるが、色んな事に手を出していく。自分も同じようにやりたい。思いをぶつけ合っていきたい。今日のテーマは、政治だけでなく、社会全体にとって大事なこと。
藤野:以前、東宝に努めていた。政治業界は生ぬるい。民間企業では当たり前のコミュニケーション戦略が通じない。友人からは、人気がある芸能人ブログでも見ろと言われている。政治業界は、民間企業のコミュニケーション戦略に近づく必要がある。
神山:「ザ・選挙」は、出来て3年。まずは政治家DBを作成することが目的であった。一番身近の政治を伝えていくことが課題。辻ちゃんブログを意識したことは無かったが、大事な視点。
伊藤:新しいものに挑戦していくときは手探り。世の中を良くしていくのは、情報発信者だけではなく、情報の受け手も大事。お互いが作り上げていくもの。140文字に制限されたTwitterという場で思いを伝えるのはリスキーな部分もあるが、政治と市民の距離を短く出来ると期待。
阿部:仲間をTwitterに誘っているが、PCの立ち上げが出来ない人も。。(苦笑)。Twitterをやっていると、温かく応援してくれているという気持ちを感じている。相手の気持ちを考えながらレスをすると、支援者になってくれる。日本の良い文化であり、広めて行きたい。
藤野:普段の仕事の中でも、厳しい言葉を浴びせられたりする。ネット上の炎上と変わらない。政治家は、一つ一つの行動が見られている。リアルもネットも変わらない。ICTの利点に光を当てたい。真夜中にも鬱で悩んでいる人も、mixiの足跡がついている。孤独ではないと思える。
藤野:週1回、ネットを通じて出会った人達とカフェに集まって話をしている。そうやって出会えるのが、ICT。
池尾:今は政治家が一方的に情報発信をしている。逆に、ボトムアップの情報の流れが出来れば良い。
池尾:市民も政治家もやるべきことはある。市民も道具はすでにある。政治家は、双方向の流れを作り、思いをくみ取るかが大事。マスメディアにもやることはある。政治を判断出来るDBを作るべき。みんなやるべきことがある。
神山:政治資金DBという試みをやっている。情報が色々なところから集まるとき、どう消化するかを考えないと行けない。
宮島:議員も繋がりたいという思いを持っている。一番地域を知っているのは市民。繋がる政治、ネットワークポリティクスが必要。
池尾:アメリカのジャーナリズムは大変厳しい状況。広告収入が奪われている。一般の人の思いをくみ取ろうという流れが出来ている。ネットワークジャーナリズムの動き。政治も同じ。政治を政治家に任せていてはダメ。
藤野:今日の話を頂いたときに、参加すべきかどうか迷った。ICTに詳しい訳でもない。でも、伝えていきたいという思いがあり、伝える手段は時代とともに変わっていく。ICTで市民の声が届きやすくなったことは本当に素晴らしい。「伝えたい」という思いを大事にしたい。
阿部:インターネット選挙が身近に迫っている。選挙は、納得のプロセス。日頃の政策決定の過程に加われることが素晴らしい。多くの人が参加することが大事。ネット選挙は、必ず解禁される。民主主義は、少数意見を重要視すること。本日はありがとうございました。
伊藤:となりの人達がPC・ケータイを使っていて羨ましかった。ケータイの電源が切れてしまった(笑)。ITが全てがバラ色になるとは思っていないが、コミュニケーションする手段が増えたことが素晴らしい。ある法案に賛成するかどうかという、議員の葛藤にも伝えていきたい。
宮島:これでパネルディスカッションを終わりにしたい。発信していくことが大事。自ら発信して欲しい。化学反応が起こればよい。

以上です。