@kedamatti's diary

米山知宏の思考メモです(専門は、知/情報/自律的な組織づくり/プロジェクトマネジメント/ナレッジマネジメント/コミュニケーション/オープンガバメント/民主主義/市民参加/シビックテック)

「加茂本」の魅力

新潟界隈でちょいと話題になっている「加茂本」というフリーペーパーがある。
 
ざっくり言えば、新潟県加茂市の商店街の若者が地域の魅力を伝えることを目的として作成した無料の冊子で、ジャンルとしてはフリーペーパーになると思われるが、それはフリーペーパーと呼ぶのが失礼なくらいフリーペーパーらしくないフリーペーパーなのである。
(現物を見ればフリーブックと呼びたくなるが、フリーブックというジャンルは無さそうなので、とりあえずフリーペーパーと呼んだ)
 

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この「加茂本」。
先日、新潟で行われた「新潟アートディレクターズクラブ」の展示会でその存在を知って、これはすぐに加茂に行って入手しなければ、、、と思っていたのだが、なんと、職場の方がすでに入手されていて、今度この本を企画した方(「きふね」という料亭の佐藤さん)に会いに行くという話を伺い、今日お邪魔させて頂いたという訳である。この本の魅力は、なんと言っても佐藤さんの人柄によって作り上げられたものであり、佐藤さんがいなければ実際にこのような形になることは無かったかもしれないのであるが、酒を飲みつつ加茂本を読んでいたら、この本の魅力について考えてみたくなったので、一酔っ払い的な視点から考えてみる。
 
 

■まず何より、その「タイトル」

「加茂本」は「かもぼん」と読む。「かもほん」ではない。私が先日一目惚れしたのは、おそらくタイトルによるものと思われる。「思われる」というのは、一般に自分が好きなものの理由について説明するのが難しいように、この本に惹かれた理由も実は正確には分からないからであるが、たぶんそうである。
しかし、この名称は実に絶妙である。「るるぶ」も「ことりっぷ」も驚いているのではあるまいか。たとえば東京でこの本を出したいとしても、「東京本(とうきょうぼん)」というのでは、なんともシマリがない。「東京人」は良くても「東京本」はありえない。また、「新潟本」も厳しい。新潟でどうしても出したければ、まだ「潟本(がたぼん)」の方がマシである。
やはり、名称は合計4文字(つまり地名は2文字)が良いように思われる。音的には合計3文字(つまり地名は1文字)でも悪くはないのであるが、「おぼん」だの「どぼん」だの、それが本であることや、もとの地名が全く分からないということになりかねず、現実的ではないであろう。
ちなみに「お」も「ど」も地名としては存在しているようである。
 
 

■厚さ

魅力の2つ目は、その「厚さ」である。我が家の定規で測定したところ、その厚さはゆうに1cmを越え、1.2cmを記録した。これには、さすがの「るるぶ」「ことりっぷ」も衝撃を受けているに違いない。
 
ところで、最適な本の厚さとはどの程度なのか。「本の厚さ」と「販売部数」には明確な因果関係があるに違いないとの仮説に立ち、Google先生に聞いてみたが、さすがのGoogle先生もご存じないようであった。ぜひとも今後の研究成果に期待したいが、その結果は限りなく「加茂本」の厚さに近いのではないかと思われるほど、「加茂本」を持ったときの気持ちよさは何とも言えないものがある。
 
 

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■サイズ

「厚さ」と同様に、本にとってはその「サイズ」も重要な要素であるが、「加茂本」はその点においても計算し尽くされている。
我が家の定規で測定したところ「148mm×210mm」、つまり「A5」サイズなのである。
私は普段、A5サイズのノートを愛用しており、A5サイズこそが「携帯性(=できるだけ小さいことが望ましい)」と「筆記性(=できるだけ大きいことが望ましい)」という相反するニーズに応えてくれるベストなサイズだと思っているのであるが、加茂本もA5サイズであった。このことにより、私のノートサイズの選択が間違っていなかったことが証明されたのである。
そして、このA5サイズというのは、私が大好きな「ちくま文庫」と「岩波文庫(≠岩波新書)」と高さがぴったり同じであり、本棚に置いたときの統一感という観点からも文句のつけようがないのである。
 
加茂本を一度手に取ってみれば、そのサイズの最適性や、常に持ち歩きたくなってしまう本であることが分かるであろう。
 

■コミュニティ規模

コミュニティの適正規模に関する研究として、イギリスの人類学者ロビン・ダンバー教授による「ダンバー数」というものがある。これは、人が認知できるコミュニティの規模は150名程度であるということを示したものであるが、この点をも考慮したものになっているのが、加茂本の恐ろしさである。
 
加茂本はその表紙にも書かれているように「181人」の加茂人が紹介されている。この数字を加茂市の人口と比較すると約160人(人口29000人 / 181人)となり、加茂市の市民160人に1人の割合で加茂本に紹介されているということになる。これは、コミュニティの適正規模を示したダンバー教授の「ダンバー数」とも非常に近い数字であり、誰か1人は知り合いが入っているということになる。その厚さやサイズにおいても計算し尽くされたものであったが、人が認知できるコミュニティの規模まで考慮しているということは「るるぶ」も「ことりっぷ」も気づいていなかったのではあるまいか。
たとえば「るるぶ」には「るるぶ東京」というものも出されているが、ダンバー教授の理論を守ろうとすると、1300万人を越える東京では加茂本の400倍近い人(約8万人)を東京人として紹介しなければならない。これは千代田区民を全員掲載しても足りない数であり、2020年のオリンピックに沸き立つ東京人をもってしても、実現不可能であろう。
 

■アナログ版Facebook

そして、加茂本の最大の特徴は、そのソーシャル性である。加茂本は、ページ毎に商店街のお店が紹介されているが、ページの大半を占めるのはそれぞれのお店で働く社長さんや従業員の方々の写真であり、売り物は脇に小さな写真が載せられているだけである。商品の価格を掲載するなど、もってのほかである。一般的なガイドブックにあるように、商品だけ掲載されても興味は涌かないが、笑顔溢れる写真を見ると、そのお店で食べたり買ったりしたくなる。まさに、Facebookをアナログの紙で実現したものと言えよう。
 

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以上、ただの酔っ払いが、失礼を承知で、加茂本の素晴らしさを様々な観点から考察した。
 
こんな記事を読むより、加茂本を手に取って頂ければその素晴らしさが瞬時にご理解頂けると思われるため、ぜひ、加茂へ行って入手してほしい。
 
どうしても加茂に行くのが難しい人は、こんな記事を読むより、以下の記事を熟読することをオススメする。加茂本がどのように作られていったか、コンパクトに分かりやすくまとめられている。
 
加茂には今日初めて行ったが、小京都と言われるところで、散歩をしていて非常に気持ちの良い街であった。
 

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