「オープンガバメント」とは何か?

Code for Niigata の米山です。
この記事は、オープンデータやオープンガバメントをテーマにした、「オープンデータ Advent Calendar 2015 - Qiita」企画の21日目の原稿です。他の記事は下記から見られるようになっています。ぜひ、ご覧ください。

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はじめに

 2009年にオバマが「オープンガバメント」を提唱して以来、それは世界的な潮流となり、日本でも特にシビックテック・オープンデータ・オープンイノベーションの文脈で広まってきたように思います。本コラムでは、これまでのオープンガバメントに関する取組を踏まえつつ、あらためて「オープンガバメントとは何か?」ということを整理したいと思います。これは、オープンガバメントという言葉が実に多様な意味で用いられ、実際、オープンガバメントに関する取り組みも多様な取組が行われるようになったいま、オープンガバメントというものを鳥瞰的視点から整理をすることにも、それなりの意義があるように思われるためです。もちろん、言葉の意味は時代によって変わりうるものですし、以下が正解というものでもありません。

「オープンガバメント」=「オープン」×「ガバメント」

 まずは、オープンガバメントの意味を形式的なところから整理してみたいと思います。「オープンガバメント」は、「ガバメントをオープンにすること」もしくは「オープンになったガバメント」と言い換えることもできますが、それでは、「ガバメント」とは何を意味し、「オープン」とはどういう状態を指すものでしょうか?オープンガバメントは、下図のWordCrowdに表れているように「対象」においても「手段」においても非常に多義的ですが、それは、「オープンガバメント」を要素分解したものである「オープン」と「ガバメント」というそれぞれの言葉が意味するものが多様であることに起因しているように思われます。

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(出典:http://blogs.worldbank.org/publicsphere/opening-government-data-why



「オープン」の構成要素


  • 透明

  • 参加

    • 直接的参加(参加の場そのものへの参加)

    • 間接的参加(参加の場づくりへの参加)

  • 協働

    • 直接的協働(協働の場そのものへの参加)

    • 間接的協働(協働の場づくりへの参加)

 「オープン」が、オバマの3原則にある「透明」「参加」「協働」を意味することについては、多くの論者がそれをベースに議論していることからも、ある程度合意できるように思われますが、「参加」「協働」は、さらに直接的なものと間接的なものに分けることができます。たとえば、「直接的協働」とは、協働プロセスそのものへの参加を意味するのに対し、「間接的協働」とは、そのような協働を行う場づくりへの参加などを意味します。FixMyStreetというアプリを例にいえば、FixMyStreetというアプリを使って課題を投稿したり、実際に課題を解決したりすることが直接的協働であり、一方、FixMyStreetというアプリ(場)自体を作ることが間接的協働です。この「間接的」な参加・協働は、2000年あたりに期待された「eデモクラシー」にはほとんど見られなかったもので、現在のオープンガバメント・シビックテック界隈における特徴的な取組と言えますが、そのことが「オープン」の意味を多義的にしています。

「ガバメント」の構成要素


  • 行政

  • 議会

  • 司法

  • 選挙

  • 市民社会

 一方の「ガバメント」については、まず、それが「行政」のみならず、「議会」や「司法」も含むべきものであることを指摘したいと思います。なぜならば、以下のWikipediaにも書かれているとおり、ガバメントとは広義には議会・行政・司法を意味するものであり、議会はもちろんのこと、司法も限定的ではありながらも民主的なプロセス(最高裁判所裁判官国民審査裁判員制度)を組み込んでいる、つまり「透明」「参加」の対象であるためです。

広義には、統治に関わる行政・立法・司法すべての機関および機構の総称を指し、狭義には、行政を司る内閣とそれに付属する行政機関(執行機関)から成る行政府を意味する。
(出典:Wikipedia


 また、それらの代表者を選択するものとしての「選挙」も、「議会・行政・司法」が遂行されるプロセスと密接な相互関係を有していることを踏まえれば、ガバメントの対象として含まれるべきものと思われます。それらは、「選挙」の判断が正しかったかどうかということを「執行・議会・司法」の過程で確認するとともに、「執行・議会・司法」で行われたことが「選挙」時の意思決定材料となるという相互関係にありますので、オープンガバメントを総体的に捉えるためには、「選挙」も含めるべきであるように思われます。
 さらに、ガバメント(政府)に対する不信から出てきた「ガバナンス論」を参照するならば、「市民社会」もその射程に含むべきように思われます。というのも、「市民社会」におけるボランティア(無償という意味ではなく、自発的という意味の)な取組は、政府のオープンガバメントを推進する上でも重要な要素であり、むしろ、市民社会におけるボランティアな取組こそが、政府のオープンガバメントの成否を左右しているといっても過言ではありません。

 以上で「オープン」と「ガバメント」の意味を簡単に整理しました。「オープンガバメント」とは、上で整理した「オープン」と「ガバメント」が掛け合わさるところに存在するものです。さて、このような整理に対して、「なんでもかんでも定義を広げただけではないか」という指摘もあるかもしれませんが、オープンガバメントの最も重要な点はその「ネットワーク性」であり「広さ」にあります。逆にいえば、その「広さ」がオープンガバメントの質を高めるということもできます。その点について、以下で記載したいと思います。


質的特徴

 下図は、オープンガバメントに関する各種取り組みの関係を整理した概念図です。簡単に言うと、政治・行政に市民が関わっていくためには、コミュニティ・データ・アプリケーションなどの「民主主主義基盤」とでもいうべきものを構築する必要があるということを書いた図ですが、これをもとに、オープンガバメントの質的特徴を整理したいと思います。

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参加形態の多様化 - ネットワークのネットワーク化

 まず指摘すべきは、参加形態が多様化してきたということです。先に述べた「間接的参加」は多様化の一つと言えますが、Change.orgに代表されるような自らの意思を表す場も「直接的参加」の機会を生みだしました。また、Change.orgのようなアプリケーションを作ることであったり、データ分析やインフォグラフィックス関連の取り組みは「間接的参加」の新たな機会となっています。これらは、参加の場そのものに参加することではなく、参加の場づくりなどへの関与を意味するもので、この図で言えば、「3) Democracy Platform」や、「2) Public Policy Process」の中の「Apps for Participation」に該当します。「Democracy Platform」を形成するまさに代表的事例としては、「税金はどこへ行った」や「マッピングパーティー」があげられます。これらの取り組みから得られる示唆は、「参加を狭く捉えるべきではない」ということです。様々な参加の場が存在する中で、場と場がネットワーク化していくこと、つまり、一つの場もネットワークと考えれば、ネットワークのネットワーク化こそが重要です。意思決定に直接的に関わらないような活動であっても、そのような活動が「Democracy Platform」の質を高め、最終的には「Public Policy Process」の質を向上させることに繋がっていくということを認識する必要があると思います。

プラグマティズムとしての「デザイン思考×オープンイノベーション

 オープンガバメントの質的特徴の2点目は、それが「<デザイン思考>という思考形態と<オープンイノベーション>というコミュニケーション形態を組み込んだ社会参加モデルである」ということです。昨今のアイデアソン・ハッカソン・アイデアコンテストは、「デザイン思考」と「オープンイノベーション」を実現しようとする場といえますが、これはプラグマティズムの思想を実現する現代的形態とも考えられます。宇野重規氏は「プラグマティズムは、実験を通じての仮説の不断の検証を重視する」と指摘しますが、アイデアソン・ハッカソンのコンセプトと共通するように思います。
 まずは「実践してみること」が重要ですが、それだけで終わるのでは無く、「評価・フィードバック」し、不断の改善に繋げていくことがオープンガバメントを推進していく上では重要であるように思います。

「政府への市民参加」から「市民社会への政府参加」の流れ

 そして、最後に、参加の流れの逆転現象を指摘することができます。つまり、従来の市民参加は「市民が政府に参加すること」を意味していましたが、それが逆に「政府が市民社会に参加する」という現象も見られるようになったということです。たとえば、市民が開催するアイデアソン・ハッカソンイベントに行政が参加するようになったということもそうですし、選挙時に市民がマニフェストのフォーマットを定め、そのフォーマットにもとづくマニフェスト作成を候補者に要請するというような取組(マニフェストスイッチプロジェクト)も代表的なものとして指摘できます。
 このような流れがでてきた事実を踏まえると、政府側の心の持ちようも変わる必要があるように思います。従来は、市民参加の場もすべてコントロール下に置こうと場を悪い意味で緻密に設計していたところも少なくないと思いますが、市民が設計した場に参加するとなると、政府はそこで起こりうることをコントロールできませんので、「不確実性」をまずは受け入れなければなりません。それは、政府からするとあまり気持ちのいいことではないかもしれませんが、長期的には「不確実性を受け入れる」という態度こそが、政府の正統性・信頼の向上に繋がるのではないかと思います。

まとめ

 以上で、オープンガバメントの定義や質的特徴について簡単に整理してきました。何より重要なことは「各自にできる手段」で「日常的にまちに関わる」ということだと思いますが、参加形態の多様化はそれを実現しやすくしているように感じます。各自の得意分野を活かして、少しでも多くの人がまちに関わっていくようになればと思います。最後のまとめとして、約50年前に書かれた以下の言葉を記したいと思います。

「私たちのごく平凡な毎日毎日の仕事のなかにほんの一部であっても持続的に座を占める仕事として,ごく平凡な小さな社会的義務の履行の一部として考える習慣」が「デモクラシーの本当の基礎」であり,また,「本来政治を職業としない人間の政治活動によってこそデモクラシーはつねに生き生きとした生命を与えられる」
(現代政治の思想と行動、丸山眞男