@kedamatti's diary

米山知宏の思考メモです(専門は、知/情報/自律的な組織づくり/プロジェクトマネジメント/ナレッジマネジメント/コミュニケーション/オープンガバメント/民主主義/市民参加/シビックテック)

オープンガバメントの特徴① 【参加の場の多様化】(勝手にオープンガバメント論シリーズ)

オープンガバメントの特徴の1点目は、参加形態が多様化してきたということです。

Change.orgに代表されるような自らの意思を表す場は「直接的参加」の機会を生みだしましたが、意思決定プロセスに直接参加するのではなく、意思決定プロセスの場づくりに参加するというような「間接的参加」は、従来のeデモクラシー時代には見られなかったもので、昨今のオープンガバメントに関わる取組(参加)において特徴的なものです。たとえば、市民が参加するためのアプリケーションを作ることであったり、データ分析やインフォグラフィックス関連の取り組みは「間接的参加」の新たな機会となっています。それらは、従来の政治参加とは異なり、民主主義を行うためのプラットフォーム作りとも言えます。その代表的事例としては、「税金はどこへ行った」や「マッピングパーティー」などがあげられます。

これらの取り組みから得られる示唆は、「参加を狭く捉えるべきではない」ということです。

様々な参加の場が存在する中で、場と場がネットワーク化していくこと、つまり、一つの場もネットワークと考えれば、ネットワークのネットワーク化こそが重要です。

意思決定に直接的に関わらないような活動であっても、そのような活動が「民主主義プラットフォーム」の質を高め、最終的には「政策決定プロセス/政策執行プロセス」の質を向上させることに繋がっていくということを認識する必要があると思います。そのことが熟議の場を豊穣なものとし、まさに単体ではなくシステムとしての熟議(熟議システム)を構築することに繋がるのではないかと考えます。

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オープンガバメントの本質は「水をさすこと」(勝手にオープンガバメント論シリーズ)

オープンガバメントの本質は、日本社会のいわゆる「空気」に対して「水をさす」ところにある。

「データ」は、そのコミュニティの常識に対して水をさし、「参加」は、そのコミュニティの意思決定の場や意思決定の対象そのもの(=慣習)に水をさしうるところに意味がある。

後者は、単に多様な意見が発現されるということにとどまらず、「集合的決定がどのように行われるべきか」ということはもちろん、「何が集合的決定の対象とされるべきか(されるべきではないか)」ということをも問うものでないといけない。

それが、「ガバメント」を「オープン」にするということの本質ではないだろうか。

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2015年に読んだオススメ本(20冊)

今年もあと3日ということで、今年読んだ本を振り返ってみようと思う。
勝手に20冊をご紹介。

以下にあげるものは、今年読んだ本の中で特に印象に残っているものだが、私の本の読み方は適当なので、みんな同じ深さ・頻度で読んだ訳ではない。じっくり一度だけ読んだものもあれば、逆に、ちょこっとずつ何度も読んだものもある。また、今年はじめて読んだものもあれば、以前から読んでいるものもある。

組織論関連

(1)失敗の本質(日本軍の組織論的研究)

今年のベスト1をあげるとするならば、「失敗の本質」をあげたい。私がこの本を最初に読んだのは大学時代だったから、今から10年以上前になる。その時は、そこそこ面白いと感じつつも、本が指摘する内容を充分に感じることができなかったのではないかと思う。今年の夏あたりだと思うが、本棚に置いていたこの本がふと気になり、たまたま手に取ったというものなのだが、いま読むことができて良かった。
少し読めば、「これは今の地域・組織ことを言っているんじゃないか?」と思わされる。「地方創生」だのなんだの言われているが、その成否は「失敗の本質」に書かれている日本的組織の課題をどの程度克服できるかということではないか。

「いやいや、理論とか抽象的なことは不要。具体的な戦略は現場で考えるから」

と指摘する人もいるかもしれないが、そのように「科学的思考」や「抽象的思考」を忌避し「空気」で意思決定をすることが問題だというのが、「失敗の本質」の主張。「具体」と「抽象」を行き来しながら、主観的かつ客観的に考える必要がある。オススメの一冊。

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

まちづくり関連

(2)地方再生のレシピ(奥田政行)

まちづくり関連は、ハードに関するもの(リノベーションなど)もあればソフトに関するもの(クリエイティブシティ論、コミュニティデザインなど)もあり、色々読んだが、一番印象に残っているのは、鶴岡のレストラン「アルケッチャーノ」の奥田シェフが書いた「地方再生のレシピ」。奥田さんのレストランは銀座にもあって、以前行ったことがあったのだが、今回この本を読むまでは、ここまですごい人だとは認識していなかった。

奥田さんは、シェフでありながら、科学者のような目線で、地域、環境、風土を捉えていく。

「調べて調べて、知り尽くすと、悪いところも見えてくる」
「それも全部ひっくるめて地域のことを考えると、好きが愛に変わる」
「覚悟ができる」
「自分の行動が変わる」

奥田さんは「地域活性化にレストランが有効」「生の素材は店に並んでいてもその場では食べられない。言葉でその良さを伝えるには限界がある」と指摘する。当たり前のようで、実は見落とされていた視点ではないだろうか。これまたオススメの一冊。

地方再生のレシピ ~食から始まる日本の豊かさ再発見~

地方再生のレシピ ~食から始まる日本の豊かさ再発見~

(3)ぼくらのリノベーションまちづくり(嶋田洋平)

人口減少社会に必要なまちづくりは「リノベーション」であり、「ほしい暮らしは自分でつくる」ということ。「リノベーションまちづくり」の手法は、今年一年で一気にブームと言えるような状況になって、いまや全国各地で展開されている。リノベーションをすればいいという単純な話ではないが、これからのまちづくりを考える上では、押さえておくべき一冊。

(4)稼ぐまちが地方を変える(木下斉)

補助金はやめろ!」「稼げ!」以上。

(5)こんなまちに住みたいナ(延藤安弘)

絵本を題材にした、素晴らしいコミュニティデザイン論。様々な絵本から、「コミュニティデザインの素」を抽出して、「こんなまちに住みたいナ」という思いを作ってくれる一冊。同じく延藤さんが書かれている「まち再生の述語集」と合わせて読みたい。
巷に流布するいわゆる「成功事例」の不毛さは、そこに「物語性」と「アート性」が無いことも要因だと思われるけれど、絵本は、「ことば」と「絵」で、アート性ある物語を作っていく。まちのことを考えるときに、絵本を読みながら「ユーモアを楽しむゆとり」や「自由な発想」を持って考えていくことも大事ではないか。そして、絵本の良いところは、それが「大人」と「子ども」を繋ぎうるメディアにもなること。

(6)地域を変えるソフトパワー(藤浩志)

今年は、アートの視点からまちづくりを考え始めた年だったが、アートの素人にも分かりやすく導いてくれる一冊だった。冒頭の以下の言葉は本当にそのとおりで、だからこそ、未完成なまちは面白い。

完成された場にはそれを享受しようとする人が集まるが、まだまだ未完成で「これから何かが起こりそうな場」には行動を促す主体性のある人たちが集まってくる。

地域を変えるソフトパワー アートプロジェクトがつなぐ人の知恵、まちの経験

地域を変えるソフトパワー アートプロジェクトがつなぐ人の知恵、まちの経験

(7)超芸術トマソン赤瀬川原平

今年は、Code for Niigata でトマソンまちあるきを開催したこともあって再読。これほど酒の肴になる一冊も無い。この本がトマソンの事例調査結果だとすれば、「路上観察学入門」はそれを調査方法(=まちの歩き方)も含めて理論化したものである。この2冊を読めば、まちあるきは何倍も楽しくなる。

超芸術トマソン (ちくま文庫)

超芸術トマソン (ちくま文庫)

(8)加茂本

加茂市の商店街の人たちで作られたフリーペーパーというかフリーブック。「商品の紹介は最小限。値段は記載しない」という方針が何より素晴らしい。「お店の人」にターゲットをあてたソーシャルメディア的フリーペーパー。加茂に行かないと入手できないと思われるが、ぜひ、手に取って欲しい一冊。

詳細は、以前ブログに書いているので、そちらをご覧いただきたい。
kedamatti.hatenablog.jp


政治学関連

この分野はもうずっと読んでいるが、今年の自分の中でのキーワードは「正統性/正当性」と「プラグマティズム」で、特に以下の本にはお世話になった。堅い話になってしまうので列挙するだけだが、中でも「アブダクション」は種々の概念や理論を生み出していく上で、非常に参考になる一冊。

(9)アブダクション − 仮説と発見の論理(米盛裕二)

アブダクション―仮説と発見の論理

アブダクション―仮説と発見の論理

(10)立法理学としての立法学(井上達夫

立法学のフロンティア〈1〉立法学の哲学的再編

立法学のフロンティア〈1〉立法学の哲学的再編

(11)現代の貧困(井上達夫

現代の貧困――リベラリズムの日本社会論 (岩波現代文庫)

現代の貧困――リベラリズムの日本社会論 (岩波現代文庫)

(12)政治の世界(丸山眞男

政治の世界 他十篇 (岩波文庫)

政治の世界 他十篇 (岩波文庫)

(13)プラグマティズムの作法(藤井聡

プラグマティズムの作法 ~閉塞感を打ち破る思考の習慣 (生きる技術! 叢書)

プラグマティズムの作法 ~閉塞感を打ち破る思考の習慣 (生きる技術! 叢書)

(14)民主主義のつくり方(宇野重規

民主主義のつくり方 (筑摩選書)

民主主義のつくり方 (筑摩選書)


データ関連

(15)ソーシャル物理学(アレックス・ペントランド)

データを活用して、いかに都市の生産性・クリエイティブ性を向上させるかということについて論じている本。「ビッグデータ」「集合知」「ソーシャルネットワーク」「モバイルセンシング」「パーソナルデータストア」あたりのキーワードに関心がある方にはオススメ。リチャード・フロリダのクリエイティブ論や、佐々木雅之さんの創造都市・創造農村論を合わせて読むと良いと思う。

ソーシャル物理学:「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学

ソーシャル物理学:「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学


ちなみに、国主催の政策アイデアコンテスト(RESASコンテスト)の提案書(以下)では、このソーシャル物理学の考え方も参考にしている。

Code for Niigata 地方創生☆政策アイデアコンテスト2015の提案書を公開します


(16)人口学への招待(河野 稠果)

この本は、人口という数字の見方そのものを初心者にも分かりやすく教えてくれる一冊。今年、各自治体は「人口ビジョン」を策定しているけれど、単に人口を推計すればいいというものではない。国はRESASを開発・提供したが、人口という数字についての基本的なことを伝えていくことも大事なんじゃないかということでご紹介。

人口学への招待―少子・高齢化はどこまで解明されたか (中公新書)

人口学への招待―少子・高齢化はどこまで解明されたか (中公新書)

エッセイ・随筆

さて、毛色は変わり、エッセイや随筆についても何冊か。

今年の本としては、まず5月に逝去された長田弘さんのものをあげたい。

(17)なつかしい時間(長田弘

いまの時代の言葉、風景、場、時間というものを厳しい視点で見て、優しいことばで表現する長田さん。大好きな言葉ばかりで、常に側に置いている。

対話をゆたかな時間にするものは、喋ること・話すことでなく、黙ること

なつかしい時間 (岩波新書)

なつかしい時間 (岩波新書)

(18)記憶のつくり方(長田弘

長田さんの本から、もう一冊お気に入りを。

 記憶は、過去のものでない。それは、すでに過ぎ去ったもののことでなく、むしろ過ぎ去らなかったもののことだ。とどまるのが記憶であり、じぶんのうちに確かにとどまって、じぶんの現在の土壌となってきたものは、記憶だ。
 記憶という土の中に種子を播いて、季節のなかで手をかけてそだてることができなければ、ことばはなかなか実らない。じぶんの記憶をよく耕すこと。その記憶の庭にそだってゆくものが、人生とよばれるものなのだと思う。

記憶のつくり方 (朝日文庫)

記憶のつくり方 (朝日文庫)

(19)山口瞳

山口瞳さんの文章が大好きで、以前から読んでいるけれども、今年もちょくちょく手に取った。「江分利満氏の優雅な生活」「行きつけの店」「酒呑みの自己弁護」「温泉へ行こう」など、どれも本当に面白い。

行きつけの店 (新潮文庫)

行きつけの店 (新潮文庫)

酒呑みの自己弁護 (ちくま文庫)

酒呑みの自己弁護 (ちくま文庫)

(20)寺田寅彦随筆集

100年前に書かれたものであり、いまさらこれを紹介するかというものかもしれないが、私の愛読書で、今年も何度もお世話になったので。書かれている内容は当然だが、何よりその表現が好きなのである。文末にたびたび使われる「〜ではあるまいか」という表現が寺田寅彦ほど似合う人はいないと思っている。

寺田寅彦随筆集 (第1巻) (岩波文庫)

寺田寅彦随筆集 (第1巻) (岩波文庫)

2016年も本を楽しむ

私が読む本は、自分で選ぶものももちろんあるが、FacebookTwitterの知り合いが薦めているものも少なくない。オススメ本のつぶやきを見ると、すぐにAmazonでぽちってしまう。なので、これからもどんどんつぶやいてもらえると嬉しい。

2016年も本を楽しみたいと思う。読みたい漫画も色々ある。
年末年始に読みたいと思って買った本は、すでに山のようになっている。

「オープンガバメント」とは何か?

Code for Niigata の米山です。
この記事は、オープンデータやオープンガバメントをテーマにした、「オープンデータ Advent Calendar 2015 - Qiita」企画の21日目の原稿です。他の記事は下記から見られるようになっています。ぜひ、ご覧ください。

qiita.com


はじめに

 2009年にオバマが「オープンガバメント」を提唱して以来、それは世界的な潮流となり、日本でも特にシビックテック・オープンデータ・オープンイノベーションの文脈で広まってきたように思います。本コラムでは、これまでのオープンガバメントに関する取組を踏まえつつ、あらためて「オープンガバメントとは何か?」ということを整理したいと思います。これは、オープンガバメントという言葉が実に多様な意味で用いられ、実際、オープンガバメントに関する取り組みも多様な取組が行われるようになったいま、オープンガバメントというものを鳥瞰的視点から整理をすることにも、それなりの意義があるように思われるためです。もちろん、言葉の意味は時代によって変わりうるものですし、以下が正解というものでもありません。

「オープンガバメント」=「オープン」×「ガバメント」

 まずは、オープンガバメントの意味を形式的なところから整理してみたいと思います。「オープンガバメント」は、「ガバメントをオープンにすること」もしくは「オープンになったガバメント」と言い換えることもできますが、それでは、「ガバメント」とは何を意味し、「オープン」とはどういう状態を指すものでしょうか?オープンガバメントは、下図のWordCrowdに表れているように「対象」においても「手段」においても非常に多義的ですが、それは、「オープンガバメント」を要素分解したものである「オープン」と「ガバメント」というそれぞれの言葉が意味するものが多様であることに起因しているように思われます。

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(出典:http://blogs.worldbank.org/publicsphere/opening-government-data-why



「オープン」の構成要素


  • 透明

  • 参加

    • 直接的参加(参加の場そのものへの参加)

    • 間接的参加(参加の場づくりへの参加)

  • 協働

    • 直接的協働(協働の場そのものへの参加)

    • 間接的協働(協働の場づくりへの参加)

 「オープン」が、オバマの3原則にある「透明」「参加」「協働」を意味することについては、多くの論者がそれをベースに議論していることからも、ある程度合意できるように思われますが、「参加」「協働」は、さらに直接的なものと間接的なものに分けることができます。たとえば、「直接的協働」とは、協働プロセスそのものへの参加を意味するのに対し、「間接的協働」とは、そのような協働を行う場づくりへの参加などを意味します。FixMyStreetというアプリを例にいえば、FixMyStreetというアプリを使って課題を投稿したり、実際に課題を解決したりすることが直接的協働であり、一方、FixMyStreetというアプリ(場)自体を作ることが間接的協働です。この「間接的」な参加・協働は、2000年あたりに期待された「eデモクラシー」にはほとんど見られなかったもので、現在のオープンガバメント・シビックテック界隈における特徴的な取組と言えますが、そのことが「オープン」の意味を多義的にしています。

「ガバメント」の構成要素


  • 行政

  • 議会

  • 司法

  • 選挙

  • 市民社会

 一方の「ガバメント」については、まず、それが「行政」のみならず、「議会」や「司法」も含むべきものであることを指摘したいと思います。なぜならば、以下のWikipediaにも書かれているとおり、ガバメントとは広義には議会・行政・司法を意味するものであり、議会はもちろんのこと、司法も限定的ではありながらも民主的なプロセス(最高裁判所裁判官国民審査裁判員制度)を組み込んでいる、つまり「透明」「参加」の対象であるためです。

広義には、統治に関わる行政・立法・司法すべての機関および機構の総称を指し、狭義には、行政を司る内閣とそれに付属する行政機関(執行機関)から成る行政府を意味する。
(出典:Wikipedia


 また、それらの代表者を選択するものとしての「選挙」も、「議会・行政・司法」が遂行されるプロセスと密接な相互関係を有していることを踏まえれば、ガバメントの対象として含まれるべきものと思われます。それらは、「選挙」の判断が正しかったかどうかということを「執行・議会・司法」の過程で確認するとともに、「執行・議会・司法」で行われたことが「選挙」時の意思決定材料となるという相互関係にありますので、オープンガバメントを総体的に捉えるためには、「選挙」も含めるべきであるように思われます。
 さらに、ガバメント(政府)に対する不信から出てきた「ガバナンス論」を参照するならば、「市民社会」もその射程に含むべきように思われます。というのも、「市民社会」におけるボランティア(無償という意味ではなく、自発的という意味の)な取組は、政府のオープンガバメントを推進する上でも重要な要素であり、むしろ、市民社会におけるボランティアな取組こそが、政府のオープンガバメントの成否を左右しているといっても過言ではありません。

 以上で「オープン」と「ガバメント」の意味を簡単に整理しました。「オープンガバメント」とは、上で整理した「オープン」と「ガバメント」が掛け合わさるところに存在するものです。さて、このような整理に対して、「なんでもかんでも定義を広げただけではないか」という指摘もあるかもしれませんが、オープンガバメントの最も重要な点はその「ネットワーク性」であり「広さ」にあります。逆にいえば、その「広さ」がオープンガバメントの質を高めるということもできます。その点について、以下で記載したいと思います。


質的特徴

 下図は、オープンガバメントに関する各種取り組みの関係を整理した概念図です。簡単に言うと、政治・行政に市民が関わっていくためには、コミュニティ・データ・アプリケーションなどの「民主主主義基盤」とでもいうべきものを構築する必要があるということを書いた図ですが、これをもとに、オープンガバメントの質的特徴を整理したいと思います。

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参加形態の多様化 - ネットワークのネットワーク化

 まず指摘すべきは、参加形態が多様化してきたということです。先に述べた「間接的参加」は多様化の一つと言えますが、Change.orgに代表されるような自らの意思を表す場も「直接的参加」の機会を生みだしました。また、Change.orgのようなアプリケーションを作ることであったり、データ分析やインフォグラフィックス関連の取り組みは「間接的参加」の新たな機会となっています。これらは、参加の場そのものに参加することではなく、参加の場づくりなどへの関与を意味するもので、この図で言えば、「3) Democracy Platform」や、「2) Public Policy Process」の中の「Apps for Participation」に該当します。「Democracy Platform」を形成するまさに代表的事例としては、「税金はどこへ行った」や「マッピングパーティー」があげられます。これらの取り組みから得られる示唆は、「参加を狭く捉えるべきではない」ということです。様々な参加の場が存在する中で、場と場がネットワーク化していくこと、つまり、一つの場もネットワークと考えれば、ネットワークのネットワーク化こそが重要です。意思決定に直接的に関わらないような活動であっても、そのような活動が「Democracy Platform」の質を高め、最終的には「Public Policy Process」の質を向上させることに繋がっていくということを認識する必要があると思います。

プラグマティズムとしての「デザイン思考×オープンイノベーション

 オープンガバメントの質的特徴の2点目は、それが「<デザイン思考>という思考形態と<オープンイノベーション>というコミュニケーション形態を組み込んだ社会参加モデルである」ということです。昨今のアイデアソン・ハッカソン・アイデアコンテストは、「デザイン思考」と「オープンイノベーション」を実現しようとする場といえますが、これはプラグマティズムの思想を実現する現代的形態とも考えられます。宇野重規氏は「プラグマティズムは、実験を通じての仮説の不断の検証を重視する」と指摘しますが、アイデアソン・ハッカソンのコンセプトと共通するように思います。
 まずは「実践してみること」が重要ですが、それだけで終わるのでは無く、「評価・フィードバック」し、不断の改善に繋げていくことがオープンガバメントを推進していく上では重要であるように思います。

「政府への市民参加」から「市民社会への政府参加」の流れ

 そして、最後に、参加の流れの逆転現象を指摘することができます。つまり、従来の市民参加は「市民が政府に参加すること」を意味していましたが、それが逆に「政府が市民社会に参加する」という現象も見られるようになったということです。たとえば、市民が開催するアイデアソン・ハッカソンイベントに行政が参加するようになったということもそうですし、選挙時に市民がマニフェストのフォーマットを定め、そのフォーマットにもとづくマニフェスト作成を候補者に要請するというような取組(マニフェストスイッチプロジェクト)も代表的なものとして指摘できます。
 このような流れがでてきた事実を踏まえると、政府側の心の持ちようも変わる必要があるように思います。従来は、市民参加の場もすべてコントロール下に置こうと場を悪い意味で緻密に設計していたところも少なくないと思いますが、市民が設計した場に参加するとなると、政府はそこで起こりうることをコントロールできませんので、「不確実性」をまずは受け入れなければなりません。それは、政府からするとあまり気持ちのいいことではないかもしれませんが、長期的には「不確実性を受け入れる」という態度こそが、政府の正統性・信頼の向上に繋がるのではないかと思います。

まとめ

 以上で、オープンガバメントの定義や質的特徴について簡単に整理してきました。何より重要なことは「各自にできる手段」で「日常的にまちに関わる」ということだと思いますが、参加形態の多様化はそれを実現しやすくしているように感じます。各自の得意分野を活かして、少しでも多くの人がまちに関わっていくようになればと思います。最後のまとめとして、約50年前に書かれた以下の言葉を記したいと思います。

「私たちのごく平凡な毎日毎日の仕事のなかにほんの一部であっても持続的に座を占める仕事として,ごく平凡な小さな社会的義務の履行の一部として考える習慣」が「デモクラシーの本当の基礎」であり,また,「本来政治を職業としない人間の政治活動によってこそデモクラシーはつねに生き生きとした生命を与えられる」
(現代政治の思想と行動、丸山眞男

「がっかり」の先にある「魅力」−1つのまちあるき論−

昨日11/28に、Code for Niigata では、新潟市が主催する“がたまる”アイデアソン&ハッカソンの1コマをお手伝いして、マッピングパーティーを開催した。

Code for Niigata が運営するマッピングパーティーは、今回が2回目となる。1回目は2015年8月に「トマソン探索」をテーマとして開催したが、今回のテーマは「古町のがっかりポイントを探そう!」というもの。「古町」はかつては若者で賑わうエリアだったらしいのであるが、最近は、大型書店(コメリ書房)やラフォーレ原宿が撤退したりと、正直、流れは良くない。そのようなエリアで、なぜ「がっかりポイント」を探そうとするのか。本記事は、「こんなマッピングパーティーがあってもいいのでは」ということで参考になればと思い、記すものである。

さて、今回のマッピングパーティーの概要は以下の記事に書いているが、他の地域で行われているマッピングパーティーと比較して、「ツール」と「テーマ」の2点に特徴がある。
http://www.codeforniigata.org/?p=194



1. 【ツール】Open Street Map へのデータ登録を目的としたイベントではなく、Fix My Streetちばレポ のように、位置情報に紐付ける形で画像とテキストを投稿できるアプリを構築したこと。
2. 【テーマ】「まちの良いところ・好きなところ」といったポジティブなテーマでもなければ、「まちの危険なところ・修理してほしいところ」というような Fix My Street / ちばレポ 的なものでもなく、「がっかり」「トマソン」という一見ネガティブなテーマを選択したこと。

1. 【ツール】Fix My Street / ちばレポ的なアプリを使ったまちあるき

一般的に「マッピングパーティー」と言うと、下記のように、Open Street Map 上にデータを登録していく、つまり地図を作っていくことを目的としたまちあるきのことを指すが、

地図を共同作成するプロジェクトであるオープンストリートマップにおいて、あるテーマに沿って地図情報を集める行事。店舗・災害時の避難経路・バリアフリー情報など、さまざまなテーマに基づいて実際に街を歩き、地図作成を行う。
(出典:https://kotobank.jp/

「デジタルも紙も関係無く、地図にまちの情報を落とし込んでいくもの」と広義に捉えれば、ガリバーマップのような取組もマッピングパーティーとして位置付けられうるものである。ガリバーマップについては、以下の報告書で詳しくまとめられている。

楠町の宝探しマップづくりのための市民ワークショップ報告書(概要版)(PDFファイル)

Code for Niigata としても、今後、Open Street Map 上の地図を作っていく狭義のマッピングパーティーも開催したいと考えているが、ITに関心がない人でもまちあるきを気軽に楽しめるような場を用意したいという目的から、過去の2回のマッピングパーティーでは、Fix My Street / ちばレポ的なアプリを使ったまちあるき(広義のマッピングパーティー)を開催した。

今回使用したツールについては、以下で公開している。 http://event2015mapping.codeforniigata.org/

2. 【テーマ】「がっかりポイント」「トマソン物件」の発掘

2点目はテーマ性である。マッピングパーティーやまちあるきのテーマとしては、以下のように、「面白い場所」「とっておきの場所」など、まちの「良いところ」を集めることを目的としたものや、ちばレポのように、補修すべき場所の情報を集めることを目的としたものが多い。

マッピングパーティーながれやま2013
ちばレポ

今回、Code for Niigata が設定した「がっかりポイント」「トマソン物件」の発掘は、そのどちらにも該当しない。あえて言えば、地域の課題を収集する「ちばレポ」に近いものではあるが、「解決すべき課題を見つけようとしている訳ではない」ということと、「道路などのハードだけを対象としたものではなく、ソフト(空間的・エリア的なもの)をメインの対象としている」という点で異なるものである。

さて、「がっかりポイントを探す」という一見ネガティブなテーマ設定であるが、やってみて感じるのは、「良いところを探す」という行為以上に、「がっかりポイントを探す」というのは実は非常に創造的な行為なのではないか、ということである。

我々は普段、「がっかり」するような場所ではなく、自分自身が楽しさや魅力を感じる場所に行くものである。だから、がっかりする場所のことは実は知らない。そこに、「がっかり」という「(ある意味)負の空間・場所」を探す行為の特徴がある。その行為は必然的に、我々を普段訪れない場所に誘導する。そして、この行為の何より重要な点は、これまで漠然と「ダサい」と思っていただけの場所・空間が、それを実際に見て、がっかりするポイントを探そうとすることで、その空間が持つ魅力も見つけてしまうということである。昨日、まちを歩く中でも、確かに人が閑散とした地下商店街であったり、(日中だからということもあるが)真っ暗な飲み屋街−正確には飲み屋アパートとでも言うべき建物だが−には残念な気持ちを持ったが、同時に、その空間が持つ独特の雰囲気に魅力を感じたことも事実である。「がっかりポイント」を探しているはずなのにも関わらず、その場をじっくり眺める中で参加者から出てくる意見は、こうしたら面白い空間になるのでは?という「可能性」に関するものだった。本当の「魅力」というものは、「がっかり」を探し続けた先にあるのではないか、とさえ思えてくる。

もう一つこの行為の魅力をあげるとするならば、それが「ユーモア性」を持ったまちあるきであり、シンプルに「面白い」ということである。Fix My Street のように、「地域の課題を探す」という行為は重要ではあるが面白さには欠ける。しかし、がっかりポイントの探索は、まちにツッコミを入れながらのまちあるきであり、非常に面白い。まちあるき番組で例えるならば、正統派の「ブラタモリ」ではなく、「モヤさま」的な面白さと言えるだろう。(ブラタモリブラタモリで大好物だが)

■モヤモヤさま〜ず 「モヤモヤ」は当番組のメインコンセプトである。当初はテレビ的でないマイナーな街を取り上げるという中で「何があるか分からないのでモヤモヤする」という意味で用いられていた。しかし回を重ねるごとに、何とも言い表せぬ微妙な雰囲気としての意味で使われるようになってきている。
(出典:Wikipedia

「地域課題の発見」も「がっかりポイントの発見」も、「まちのことを知る」という意味では同様の行為であるが、モヤさま的な笑いを入れつつ、まちを歩きたいということであれば、「がっかり」まちあるきはオススメである。私自身も、さらに、まちに隠れている「真のがっかり」=「まちの魅力の原石」を見つけたい。

パリのテロに関するアメリカ政府とイギリス政府のTwitterでの情報発信(11月14日11時時点のメモ)

(11/14、11時時点)

パリのテロについて、日本政府のTwitterから何も情報発信されていないことに対する批判が出ていたので、アメリカ政府とイギリス政府のTwitterを覗いてみた。

 

■日本政府のTwitter

首相官邸 (@kantei) | Twitter

 

■アメリカ:ホワイトハウス

The White House (@WhiteHouse) | Twitter

→さすが。 「これからオバマが声明を出す」ということをまず出した上で、声明の概要、動画を掲載。

 

 

オバマTwitter

President Obama (@POTUS) | Twitter

→こちらは何もつぶやき無し

 

■GOV UK

GOV UK (@GOVUK) | Twitter

→意外なことに、何もなし

 

■キャメロンのTwitter

UK Prime Minister (@Number10gov) | Twitter

→「ショックを受けている。できることがあれば何でもする」と。

 

■余談(安倍総理

安倍晋三 (@AbeShinzo) | Twitter

→9月22日以降、つぶやき無し

 

それにしても、アメリカ政府の動きは迅速です。

オバマの声明を動画&テキストでWebに公開した上で、ホワイトハウスのWebのトップページも今回の事件向けに変更しています。

www.whitehouse.gov

 

www.whitehouse.gov

長岡オープン&ビッグデータ活用研究会での講演

昨日は「長岡オープン&ビッグデータ活用研究会」にお邪魔してきました。
この界隈で活動する身として、研究会を立ち上げて取り組んでいこうという姿勢が嬉しかったですし、オープンデータやオープンガバメントに対する長岡のポテンシャルを感じることができた研究会でありました。

 

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ポテンシャルを感じた点はいくつかありますが、一つには、研究機関の存在があげられます。
長岡には、長岡技術科学大学長岡造形大学、長岡大学と3つの大学があり、さらには、長岡工業高等専門学校もあります。オープンガバメントを推進する上では、技術力も当然必要ですが、デザイン的な要素も重要で、この点で非常に可能性があると思います。実際、昨日の研究会にも、ITのみならずデザインを専門にされている方も参加されていましたが、ぜひ、学生にもどんどん関わって欲しいと思います。(ディスカッションの中でも、学生の関わりが重要だという指摘もありました)

※余談ですが、先日策定された長岡市の総合戦略も、「若者」をメインキーワードとして組み立てられていて好感が持てる内容です。
http://www.city.nagaoka.niigata.jp/shisei/cate01/sousei/

二点目は、この組合と行政との関係です。
オープンガバメントがうまくいくかどうかは、結局「市民と行政の関係性」が最も大事なのではないかと思っていますが、今回の研究会には市の職員の方も参加されていましたし、一方、組合の方からは「来年度事業の提案を市に持って行こう」と検討されていて、非常に良い関係だと思います。

そして、何より、今回の研究会の主催者である「長岡IT事業協同組合」の存在がポテンシャルを感じさせる最大の要因でした。飲み会で話を聞いてみると、この組合は十数年前に立ち上がったけれども、一時、組織的に難しい状況になったと。そこから、若いメンバーが中心となり運営をして、現在のような取組を行うまでに至ったと。組合のWebに書かれている「大手企業並みの業務規模も対応可能としつつ、中小企業ならではのきめ細かなサービス提供にて、社会に貢献いたします。」という理念にはとても共感するし、実際、共同受注も増えているようです。
研究会に参加するまでは、どの程度本気の集まりなんだろうと思っていたのですが(失礼いたしました)、想像以上にパワフルな集まりでした。
Code for を立ち上げるまでもなく、コミュニティとしての下地は充分にできていて、あとは、市民・学生との関係をどう作っていくかということかと思いますが、これだけベースがあればそんなに難しい話ではないように思われます。(というか、すでに市民・学生との関係もできていると想像します)
http://nagaokait.com/

個人的には、長岡エリアでも仕掛けていきたいものがありますので、今後もお邪魔させていただければと思っていますし、一緒に、新潟全体を盛り上げていければと思います。

どうもありがとうございました。

※講演資料をSlideshareにアップしておきました。

www.slideshare.net